ジョブ型といえば雇用制度の変革だったり、労働制度にも深く関わってくるので、厚生労働省でどのように考えているかが気になる方も多いと思います。
そこで、厚生労働省から発信されているジョブ型に関する主要な資料をまとめてみました。
調査して分かったこととして、厚生労働省はジョブ型に対し、恐らく〇〇と思ってる!ようなんです。その辺を含め、これらの調査結果と解説をしていきます。
厚生労働省の動きを確認する前に、各企業のジョブ型への導入状況が気になる方は、こちらにまとめていますので確認してみてください。
厚生労働省から発信されている「ジョブ型」について
ここでは厚生労働省のWebサイトから発信されているジョブ型に関する記述をピックアップし、それぞれ解説いたします。
調査の中で古いものの方が深い内容が発信されているので時系列で古い順にご紹介します。
雇用ワーキング・グループ報告書
規制改革会議 平成25年5月29日(第7会合)の後
※平成25年=2013年
2.雇用改革の「3 本柱」と理念・原則
(1)正社員改革
・・・このため、正社員改革の第一歩として、職務、勤務地、労働時間等が特定されている「職務等限定正社員」、いわゆるジョブ型正社員を増やすとともに、その雇用ルールの整備を早急に進めるべきである
1.ジョブ型正社員の雇用ルールの整備ジョブ型正社員(職務、勤務地又は労働時間が限定されている正社員)は多くの企業で導入が進んできているが、その形態が労働契約や就業規則で明示的に定められていないことが多いため・・・
(1)労働条件の明示
① ジョブ型正社員の雇用形態を導入する場合には、就業規則においてジョブ型正社員の具体的な契約類型を明確に定めるとともに、ジョブ型正社員を実際に採用するときは、その契約類型であることを契約条件として書面で交わし明確にすることが望まれる。
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000022663.pdf
この資料の作成元は、規制改革会議(正式名称:規制改革推進会議)です。これは2016年9月に内閣府に設置され、経済に関する基本的かつ重要な政策に関する施策を推進するための会議体です。つまり、厚生労働省ではありません。
このようなジョブ型正社員に対する提言が22ページの資料でまとめられています。そして、最後に具体的な規制改革項目として、ジョブ型正社員に関する既存ルール・制度に対する4つの整備や見直事項について、厚生労働省が所轄省庁に指定されています。
厚生労働省さん、これらについて考えてね!という資料ですね。
「多様な正社員」に関する連合の考え方
日本労働組合総連合会 2013年12月6日
【参考】 規制改革会議・雇用WGにおける裁判例の分析について
規制改革会議・雇用WGの座長提出資料(第3回:2013年4月17日)では、「ジョブ型正社員に係る裁判例の概要」において平成10年以降の裁判例を20例あげ、ジョブ型正社員においては整理解雇が緩やかに認められている点を強調しているように思われる。:
しかし、当該資料における判例の抽出の仕方や分析については、以下のような問題点が認められるのではないか
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000031927.pdf
(1)職務や勤務地が限定されている「ジョブ型正社員」の裁判事例とは言えないものも含まれているのではないか
(2)「ジョブ型正社員」に関する事案においても、解雇回避努力義務や人選の合理性はしっかりと検討されているのではないか
前述の提言と同様に、厚生労働省ではなくて内閣府の検討会議で「ジョブ型」について記述された資料について、厚生労働省側の日本労働組合総連合会が反対意見を出している、という状況のようです。
連合が主張する、正社員が多様化(限定正社員)すると、ダウングレード(処遇悪化、賃金ダウン)が行われる懸念がある、ということもある範囲では納得ができますね。
ジョブ型正社員の雇用ルール整備に関する意見
規制改革会議 平成25年12月5日
ジョブ型正社員(職務、勤務地、労働時間いずれかが限定される正社員)は、専門性に特化したプロフェッショナルな働き方、子育てや介護との両立、正社員への転換を望むも無限定な働き方は望まない非正社員、等の受け皿として重要である。
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000031932.pdf
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4.今後の議論の進め方
本意見を受けて、厚生労働省「多様な正社員の普及・拡大のための有識者懇談会」(以下「懇談会」)において議論が深められることを強く期待する。
規制改革会議は、「懇談会」を含む厚生労働省の取り組みについて検討状況の聴取を行いながら、必要に応じ会議の意見を示すなど引き続き積極的な働きかけを行っていく 。
この意見書では、ジョブ型正社員の雇用ルール整備に関して、ジョブ型正社員の重要性、ジョブ型に関して定めることが必要な事項、労働契約や就業規則に関して提言が行われている資料です。
そして最後に、厚生労働省宛へ「議論するように期待する」と明示し、今後も積極的な働きかけを行うと記されています。
この資料が厚生労働省サイトで掲載されているのがポイントですね。厚生労働省として状況を知っているということなので、その後どうなったのかが気になりますね。
「多様な正社員(ジョブ型正社員)について」
規制改革会議 雇用ワーキング・グループ 平成26年4月22日
3.「多様な正社員」の普及・拡大
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000045355.pdf
多元的な働き方」に係る海外実態調査(ジョブ型の働き方)
・欧米各国の社会全体における職業意識や雇用慣行などの実態調査
前述の続きと思われますが、ジョブ型について検討されており、ジョブ型に関する目的、処遇関連、転換制度、労働条件等、課題点等が議論されています。また、予算をかけて海外実態調査等を行っていたようです。
(平成26年度予算 1.2億円)
平成26年版 労働経済の分析
厚生労働省 白書 平成26年
人材マネジメントの基本的な考え方として、「仕事」をきちんと決めておいてそれに「人」を当てはめるという「ジョブ型」雇用と、「人」を中心にして管理が行われ、「人」と「仕事」の結びつきはできるだけ自由に変えられるようにしておく「メンバーシップ型」雇用があり、「メンバーシップ型」が日本の正規雇用労働者の特徴であるとする議論もあるが・・・
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/14/dl/14-1-2_02.pdf
ジョブ型という言葉は出てきますが、あまり突っ込んだ説明を行っていません。あくまでさらっとした定義の説明のみで、それ以降もメンバーシップ型についての説明になっています。
やっと出てきました、今回初めての厚労省の資料です!
でも、ちょっと肩すかしな感じでした。
ジョブ型正社員(勤務地限定正社員、職務限定正社員等)の雇用ルールの明確化に関する意見
規制改革推進会議
令和元年5月20日 ※2019年
【問題点】
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/committee/20190520/190520honkaigi02.pdf
(1) 「勤務地限定正社員」、「職務限定正社員」等は、多くの企業で導入が進んでいる10が、労働契約法第4条第2項11において、労働契約の内容については、“できる限り”書面による確認をすることとされているにすぎないため、勤務地等の限定が労働契約や就業規則で明示的に定められていないことが多い
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【改革の方向性】
(1)国は、「勤務地限定正社員」、「職務限定正社員」等を導入する企業に対し、勤務地(転勤の有無を含む。)、職務、勤務時間等の労働条件について予測可能性を高められるよう、個々の労働者と事業者との間の書面(電子書面を含む)による確認を義務付け、現行の労働条件明示に関する規定について必要な法令の見直しを行うべきである。
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改革の方向性がいくつか示されています。概要としては、書面での条件(職務、労働条件、勤務地変更等)提示の規定、無期転換ルールが周知についてです。
またまた、規制改革推進会議からの提言資料ですね…
(上司から仕事が山のように降ってくるイメージ!?)
第7回労働政策審議会人材開発分科会 議事録
厚生労働省
平成30年6月27日
このジョブ型に関すると、この間のこの分科会での御審議を通じて広がった部分としては、第5類型、第6類型に相当する情報通信技術の分野が代表例ではないかと考えております。・・・大体1,000万人強ということで、このジョブ型で言うと、今この専門実践教育訓練が、ものすごく大雑把に明確にカバーしている部分というのが20%強ぐらいあると。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_01135.html
ジョブ型雇用の割合や規模についての状況説明ですね。その他でも、特にジョブ型が明示的に良いとか悪いとか、そのようなコメントはありませんでした。
厚生労働省では「ジョブ型」についてあまり語りたくないんですかね??(特に語る必要はないという立場ですかね?)
その他、厚生労働省から発信されている「ジョブ型」が含まれる資料について
厚生労働省からは大量の資料がアップされていますが、ざっと確認したところでは、規制改革推進会議が言っているような「ジョブ型」に関する記述が特に出てきませんでした。
つまり、厚生労働省としては、特に「ジョブ型」については主体性を持って対応をしておらず、内閣府からの各要請については対応していたとしても、厚生労働省としてのコメントや主張は特筆すべきものが見つけられませんでした。
そして、現在の厚生労働省のページで
雇用・労働 > 労働政策全般 > 規制・制度改革規制・制度改革
では、この規制改革推進会議へのリンクがつけられているだけになっています。
ぶっちゃけ厚生労働省としては、(内閣府から)言われたからやっているけど、ジョブ型については知らないよ(意見やコメントは特に無いよ)ということかも!?しれませんね…
ジョブ型について厚生労働省はどう考えているのか?まとめ
今回はジョブ型に関して厚労省がどう考えているのかについて、厚労省から発信されている内容を適宜ピックアップしてご説明しました。
その中で、私のリサーチ不足かもしれませんが、厚生労働省と名前が付いた資料やWebサイトには、「ジョブ型」に関する積極的な発言がほぼ見つからず、一部あったとしても何かの拍子に資料の一部にだけ表れてしまったとか、協議会のメンバーが一部で発言しただけ、という感じでした。
これは良いか悪いかは別として、経済産業省とは全く方向が違うので少しびっくりですね。
今後は企業が中心となってジョブ型雇用の導入が進んでいきそうですが、それに対して厚労省側でどのように対応するのか、注目していきたいですね。
また、経済産業省から発信されたジョブ型についての内容は、次の記事でまとめていますので、よかったら確認してみてくださいね。